MONSTAR

おとぎ話を捨てて ぜんぶ 今ここで つくってしまおう

ぴかぴかしてて きみのひとみよ


「少年たち 青春の光に…」
明日の朝日を求めた僕と、そこで出会った少年たちと、真っ白な幼なじみの物語。の感想。



今年の夏、丈くんは「村田宗次郎」という刑務官を演じた。そして丈くん以外のなにわ男子6人はみんな囚人役だった。西畑さん演じる祐二を軸に、大橋くん演じる拓未が新しい風を吹き込み、みっちー演じる潤平をはじめとした雑居房の囚人たちは絆を深めていった。そのそばで、1人外側にいたのが丈くんの演じる村田さんだった。

村田さんはずっと1人だった。立場が同じはずの看守陣にも馴染めず、馴染まず、そして幼なじみである祐二には「看守」と「囚人」で立場が違うと言われてしまう。潤平の出所記念パーティーを見守る村田さんの表情はとても柔らかくて、囚人たちに寄り添えたように見えたけれど、その後脱獄事件が起きてしまう。祐二を守れなかった悔しさや悲しみに加えて、囚人たちにも自分の想いが届かない寂しさがあった。


そんな中でも、脱獄を試みて危ない目に遭う囚人たちを必死に助けようとした村田さんのまっすぐさはすごい。それはきっと、もう誰も失いたくない、傷付けられずに生きて更生してほしい、まだ間に合う、自分にもできることがきっとあるという意識の表れだったと思う。
だけど、囚人たちに手を掛ける看守長たちの姿は、村田さんに祐二の死を思い出させたようにも思う。囚人たちが痛めつけられている光景は、きっと祐二が苦しめられていた光景と重なった。そして山森や六郎たちを救えば救うほど、祐二を救えなかった事実は際立ってしまったのではないだろうか。今はこうして六郎たちを救うことができているのに、どうして祐二のことは救えなかったのか、悔しさや怒りが募っていたのかもしれない。数年後、出所したみんなの言葉をこっそり聞いて、ドヤ顔をしながら照れくさそうに笑っていたけれど、あのとき実際はすごく苦しかったのかもしれない。


だから最後の最後、看守長に銃を向けてしまった。村田さんだって、最初は正当な手段であの刑務所を変えて、少年たちに更生してほしいと思っていた。人は更生できる、真っ白に戻ることができると信じていた村田さん。それはきっと、汚れたことのない人間だから思えることでもあった。1度ついてしまったシミが落ちないことを村田さんは知らなかった。看守長からそんな考えを「ぬるい」と言われた村田さんは、「僕はそんなことないと信じています」と返したけれど、あれは「信じて」いたのだろうか。そもそも「戻れない」なんて想像すらしなかったのではないかな。それくらい村田さんは真っ白で、痛いくらい真っ白で、大人だけど少年のように見えた。



反対に、真っ白に戻ることを想像しても、それはできないことを知っていたのが拓未だった。その決定的な違いを哀しいくらい強く意識していた拓未。

世の中には天国も地獄もない、勝手にそう思ってるやつがおるだけ

何が違うんやろな、幸せを掴む人間とそうじゃない人間

ここにおる連中もシャバにおる連中もそんなに変わらんと思う

そう話す拓未が、「真っ白な村田さんやのに、俺らみたいになってしまう」「1回汚れたらな、なかなか落ちひんから。だから、やめて」と村田さんを止める哀しさったらない。残酷だと思った。



あのシーンを初めて見たとき、リューンのことを思い出した。丈くんと大橋くんの演じる役の一方が道を誤りそうになったとき、もう一方の役がそれを救う。ボロボロになりながらも必死で。その構図は同じだった。だけどそれぞれの立場や心情は全然違った。リューンでは引き止める側のフローが真っ白で、染まっていくダイのことを「そっちへ行っちゃダメだ」と自分の側に引き寄せる図だったけれど、少年たちでは逆だった。引き止める側の拓未には黒く染まった過去があって、真っ白な村田さんに「こっちへきたらあかんよ」と自分と反対側へ押しやる図だった。

それぞれの心情は重なるようで重ならない。フローには救えたことの喜びが、ダイには救われることの苦しさが、そして拓未には救ったのちの寂しさがあったように思う。村田さんを止めることができた拓未には、もちろん嬉しさもあったはず。決定的な違いを知っているからこそ、村田さんを真っ白なままに守ることができた嬉しさや安堵は一層大きかったかもしれない。そして、人はこうして正しく在ることができる、という希望や救いにもなったと思う。

だけどそれと同時に、自分とは違うことをどこかで少しだけ、ほんの少しだけ寂しくも感じてしまうのではないかな。「自分とは違う」状態がこのまま続いていく。自らその一線を守った。自分の側に来てほしいなんて当たり前に思っていないだろうし、僻みとも違うし、なんの感情と言えばいいんだろう。もう戻れない、いつかの自分を見ているような、そんな気持ちがあったかもしれない。止めてくれる人が誰もいなくて、どん底まで転がり落ちてしまった拓未が、一歩踏み越えそうになってしまった村田さんのことを止める。下に落ちていくことを、黒く染まることを知っているからこそ、止めることができた皮肉さがあった。



拓未に止められた村田さんはどんな気持ちだったんだろう。怒りや悔しさが募って、黒い大きな感情に呑まれて看守長を殺してしまおうと思った村田さん。潜入捜査の命を受けて刑務所へやってきたころは、看守長たちの罪を暴き、法の下でしかるべく裁かれればそれでいいと思っていた。そしてその捜査と同時に、看守として、少年たちの更生を手助けすることが村田さんの希望だった。「受刑者の運命はこの俺の手にかかっている」「罪を犯した人間にも未来はある」と明るく力強い表情で話していた。あの刑務所には祐二がいたから、より一層その想いは強かったはず。だけど現状は想像していた以上に真っ黒で、そして祐二は更生するどころか命を落としてしまった。


君の苦しみ知りながら 君の悲しみ知りながら 何もできない僕なのね

この歌詞は村田さんによく似合ってしまった。囚人たちに想いが届かず、脱獄を止めることのできなかった村田さんがいた。すぐ手の届く距離に祐二や拓未たちの苦しみはあったけれど、掬いきれない村田さんがいた。

たとえば、潤平をかばった祐二が拷問を受けていたシーン。祐二の入れられた部屋までこっそりやってきた村田さんと祐二の間には格子があって、村田さんはそれを越えて祐二の隣に行くことはできなかった。
あのとき、祐二は「リーダーやから」「大切な仲間のため」と最後まで潤平を庇った。「お前ちゃうんやろ?なんでそこまでして、」という村田さんの問いかけに、子どものころのむらっちの言葉を返した。「元気があれば、なんでもできる。仲間と一緒で元気満タン」だった。みんなに、仲間に元気をもらったから、最後までリーダーだった。「今日は最高の日や」とすら話して笑って最期を迎えた。

自分の言葉に動かされて祐二が最期を迎えてしまったやりきれなさに私は耐えられなかった。拓未がやって来て、雑居房のみんなと仲間になったことで、たとえむらっちと再会していなくても祐二は同じ道を選んでいたと思う。だけど最後にあんな言葉を聞いてしまったら、村田さんは祐二を守れなかった後悔に加えて、どこかで背中を押してしまったような気持ちになったかもしれない。鉄格子の外で祐二の言葉を聞く村田さんの表情はあんまりにも悲しかった。どこかで自分を責めているようにも見えた。そこを看守長たちに見つかって、為す術なく連れていかれてしまった無力さも、きっと哀しかった。


翌朝、祐二の死を知った村田さんは、目から光を失っていった。このときの丈くんの演技が私はすごく好きだった。「悲しい」「悔しい」「怒り」そうやって分類できる感情にまでたどり着いていないように見えた。ただ、大切な人の「死」を目の当たりにさせられて、茫然としているようだった。




その祐二の死をきっかけに脱獄が始まり、村田さんは銃を手にしてしまうことになり、それを拓未に止められる、そんな一連の流れがとにかくかなしかったなあと思ってしまっていて。最後の丘の上で村田さんは前を向いた表情をしていたけれど、きちんと救いはあったのだろうか。山森たちを救えたことすら村田さんにとって苦しくもあったのではと思ってしまったり、そして看守長に銃を向けた村田さんは、引き金を「引かない」ではなくて「引けない」だったこともどう飲み込めばいいのか分からないままだったりする。

あのシーン、村田さんは拓未に止められて銃を下ろすけれど、私が観た中では1度だけ、拓未の言葉を聞きながら引き金を引こうとして、だけど引けない村田さんがいた。それは拓未の言葉を受けて「引けなくなった」「引かないを選んだ」とも取れるけど、私には村田さんが「引けない」人に見えた。一線を越えられない人に見えた。あのとき拓未が止めなかったとしても、村田さんは看守長を撃てなかった気がした。

あの日の拓未の「だから、やめて」に込められた気持ちは、「こっちへ来たらあかん」だけではなくて、「こっちへは来られへんよ」というようにも見えてしまった。柔らかな拒絶のようで、それもまた哀しかった。あのときの村田さんの心情はどんなものだったんだろう。その瞬間を経て、あの丘にやってきた村田さんは何を思っていたんだろう。




と、思うことはいろいろとあるけれど、このお話への感想が「かなしい」で終わってしまうことがきっと1番かなしいことだと思う。きっと希望の光もそこにはあった。



拓未や君麻呂がやってきて、へたくそな行進やモップ掃除を通じて、これまでのルーティーンの崩れる兆しが生まれた。
モップ掃除のシーンはすごく印象的だった。延々とぐるぐるとモップを掛け続けながら、自分の過去を話した祐二。事件の日のことを話すとき、ごしごしと一点を磨き続けていた祐二は、あの日床に広がっていた血と、そして自分の心にできてしまったシミを必死で綺麗にしようとしているように見えた。

そんな祐二の話をずっと柔らかくほほえみながら聞いていた拓未。ずっと笑ってた。このときの拓未が私は1番こわかった。何を考えているんだろうって。祐二の話を聞いても驚いたり怖がったりする様子がなかった。事件のことになると少しだけ締まった表情にはなったけれど、それでも顔は優しいままだった。

そして祐二が仮面を外してしまった話になると、何か思いついたようにバケツにモップを突っ込んで、最初と同じようにうまく抜けなくて壁を汚してしまう。それはずっとぐるぐるしていたモップ掃除の、これまでの決まりきった流れを切った。型にはめられた刑務所での流れが変わり始める象徴的なシーンだと思った。それと同時に、自分が汚してしまった壁を「拭いとかなな」と笑ってごしごしと磨く拓未を見て、あれだけ違いを気にせず明るく振る舞っているように見える拓未も実は自分のシミを気にしている、そんな一面を見てしまったようにも思った。


君麻呂のへたくそな行進も、毎日きっちりと押し付けられていた刑務所での生活にひびが入っていく瞬間のように見えた。そうやって少しずつ崩れて、祐二や拓未に動かされて、少年たちは変わっていった。祐二が死んだあと、やりきれなくて釈然としない思いを暴力という形で他人にぶつけるのではなく、それぞれが自分の中にとどめて、だけど昇華させられないから走り出した。ぐるぐると、同じ場所をただひたすらに走り続ける姿は、まだ抜け出せない現状を表しているようで苦しくもあったけれど、それでも、少年たちは変わった。カケルの裏切りを知ったときも、トオルのときのように再び赤と青が殴り合うことにはならなかった。それを止めたのは幸作や六郎で、亡くなった祐二の想いが引き継がれていた。ずっとぐるぐると、真っ黒なとぐろを巻いているように見えた負の循環のようなものが変わり始めた。


その先に拓未たちは「脱獄」を選んだ。
どうしてそれを選んでしまったのか、やっぱり今でもわからずにいる。だってそれはきっと正しくはないから。だけど同時に、祐二の言っていた「選択肢が1つしかなかったのなら、ずっとベストな選択をしてきたことと同じ」という言葉を思い出す。そうするしかなかったから、正しくはない方法を選んでしまった。選ぶしかなかった、のかな。
そんな拓未たちの脱獄は失敗に終わる。やむを得ない選択によって、彼らがまた黒く染まってしまう事態は抑えられた。結果としてきちんと刑期を終えて出所できたことは、ある意味で彼らに与えられた救いにも見えた。



そして数年後、拓未たちは約束の丘で再会する。
雑居房のみんなは出所後の同窓会を約束していた。どん底から這い上がって、頑張っているところをお互い確かめ合うために。そして、丘の上からあの刑務所のことを見下ろすために。

看守であるむらっちのことを「立場が上の人間」だと祐二は話していた。囚人たちは、自分たちの現状のことをどん底だと言っていた。看守長の部屋がセットの上にあったことも、立場の「上」と「下」の強調に見えた。そんな上の立場の人間よりも上に行くことを目指した。転がり落ちた終着点から這い上がろうと約束した。そして刑期を終えた拓未や潤平たちは刑務所を見下ろす丘の上にやってきた。

その場所まで上がっていくことができた拓未たちは、昇っていく朝日のようだと思った。



拓未が脱獄を選んだ理由は分かるけど分からなくて、力なく銃を下ろした村田さんの救いも分からないままだけど、それでも、祐二以外のみんなが生きてあの丘に集まれたこと、顔を上げていたことに未来を見たいと思った。少年たちの更生を願っていた村田さんもこんな気持ちだったのかな、私もそんな気持ちでありたいなと最後に思った。
俯いて閉ざしていては、光は差し込まないから。





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舞台のサブタイトル「青春の光に…」と、なにわ男子の新曲「アオハル 〜with U with me〜」には同じ『青春』という言葉が使われていて、歌詞と物語にはリンクするものがあった

どんな道のりだって 逸らさず真っ直ぐに
俯いて閉ざしては 光は差し込まない

「これから俺たちの人生にはええことしかない、人生楽しめへんのが一番の罪や、やから笑っていこ」と現状を悲観するだけではなく上を、光を目指して顔を上げようと話していた拓未や、

君が居てくれたら もっと強くなれる
必要な力なら 全て求めよう

「俺はリーダーやから」「仲間がいれば元気満タン」と話して、最後まで仲間のために強くあった祐二や、

降り続く雨の日を 越えて晴れ渡る日に

1度は黒く染まってしまったかもしれないけれど、ここできちんと更生して、また晴れ晴れとした未来を生きてほしいと思っていた村田さんや、

1から100までを風に乗せて

雑居房全員で協力して脱獄を目指し、途中でなくした仲間の全部を無駄にしないように一歩を踏み出し続けようとした拓未たち。


西畑さん丈くん大橋くんのパートは、そのまま3人が演じていた祐二・村田・拓未の想いと重なるようで、そういう意図がないことは分かっていて、偶然というかもはや私のこじつけのような感じもあるけど、なんだかイメージソングのようにも聴こえた。


この物語では村田さんと拓未の間に祐二がいた。フローとダイとは違って、2人が直接的な対にならないことが新鮮で不思議な感じだった。丈くんと大橋くんの2人自身が「丈橋」として対でいる様子を見てきていたから余計に。

祐二に対して、村田さんは外から手を引っ張ろうとする一方で、拓未は内で背中に手を添えているようだった。大枠で考えればその「外」と「内」という意味で対にはなるけれど、村田さんと拓未だから生まれる関係性ではなくて、祐二を軸として生まれる関係性が物語を動かしていった。それを演じているのがなにわ男子の兄組3人、丈くんと西畑さんと大橋くん、という構図もまたおもしろかった。そしてこの3人のメンバーカラー青・赤・緑は、西畑さんも言っていたように光の三原色で、3つが合わさると「真っ白」な「光」になる。


なにわの中で丈くんだけが看守役だったことが最初は少しだけ寂しかった。初めて観劇したとき、だんだんと絆が深まっていく囚人たちの輪の中にどうして丈くんはいないんだろうと思ってしまう自分がいた。だって羨ましかった。丈くんが1人でいる傍らで仲間になっていくみんなのことが。

だけど、そんな自分がいたことも事実だけど、でもそれ以上に、丈くんと西畑さんと大橋くんがそれぞれあの役を演じた、丈くんが村田さんを生きたこの夏の舞台が私は大好きだ。



なにわ男子 初座長の舞台「少年たち 青春の光に…」
全37公演、本当にお疲れさまでした!!!!!!!