MONSTAR

おとぎ話を捨てて ぜんぶ 今ここで つくってしまおう

涙で錆びた未来が動き出すまで

シャルラルレラピア~ヒュルラルレサリア~ところでさつきさんはリューンをハッピーエンドだと思っておられますか?

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という質問に答えようと思ったら長くなったのでここに書きました。





リューンはハッピーエンドだったのか。難しいけれど、少なくともバッドエンドではなかったと私は思います。


結果としてダイは命を落とさずに滅びの剣から解放されたし、滅びの剣をめぐってフローとダイの2人は大きく成長したし、ずっと苦しんでいたダイス先生はようやく死ぬことができたし、滅びの剣は昇華したし、なんといっても2人とも生きています。初めてリューンを見たとき、剣が昇華したあとにフローとダイが腕を組んでそのまま倒れてしまうシーンで私は、ああ、2人は死んでしまうんだ、あんなに綺麗な表情をしているのに、なんて救われない結末なんだろうと思ったんですよね。でも生きてた。

左手と右耳を失って身体はボロボロだったけれど、フローはエルカと2人でルトフの里に帰ってきました。「またみんなで一緒に舞台をやりたい」という想いを胸に。義手を心配そうに見つめるアリーシャとフローリアに対して、大丈夫だよとでも言うように笑って叩いて見せるフローくんの健気さには涙が出ました。フローはこれからこの平和な里で、再び安寧な暮らしを送れるんだなと思うと、よかったねえという気持ちでいっぱいになりました。そして、弔いの旅に出ていたダイの表情も晴れやかで、2人はそれぞれ新しい道を生きていくんだなあと思いました。離れていても繋がっている、とお互いを信じあっていた2人。そこに流れる「風の舟」。錆びた未来は動き出していて、こうして考えると綺麗に終わった感じがしますね。大きく見れば悪くはない結末だったような気はします


とはいえ、じゃあハッピーエンドだったのかと言われると素直に頷けないというかなんというか。

そもそもフロー自身は、あの結末に納得できていたのでしょうか。

「大丈夫、俺にはお前がいる。もしも俺が道を誤ったときは、お前が俺を救ってくれる。そうだろ?」
「うん、約束する。この身を挺してでも」

このやりとりはとてつもなく重いものだったと私は思っています。この約束を胸にフローは旅に出たわけで、「リューン・ダイを殺すのは、僕だ」と言って左腕を差し出してまでダイを救おうとしていました。少し前に「ダナトリアとダイの間に入ったフローは何を考えていたんだろう」という話をしたのですが、あのときフローはダナトリアに対して「ダイとの戦いを邪魔してほしくない」という気持ちもあったのではないかなと思っていて。それくらい、フローは自分でダイを救うことに執着していたような気がしていました。

それにも関わらず、最終的にダイを滅びの剣から救ったのはダイス先生でした。こんなのやりきれなくないですか?最後の最後には決意に満ちた表情で剣を置いて、自分は死んでしまうかもしれない、まさに「身を挺す」覚悟でダイに向かっていったのに、あの土壇場でダイス先生に間に入られて。私だったら勘弁してほしい。雰囲気ぶち壊しますけど本音を言えば「お前が入ってくるんかーーい」って私はなりましたよ。びっくりの一言ですよ。

「ダイス先生が、身を挺して」の寂しげな響きは、ダイス先生を死なせてしまった後悔や悲しみだけではなくて、「救ったのは自分ではなかった」という悔しさや自責の念も込められていたのかもしれない、とすら思えてきます。


だけど、結果としてダイス先生のおかげでダイは剣から解放されたし、フローは命を落とさずに済みました。「僕がリューン・ダイを殺してくる」と言っていたけれど、ルトフの里に帰ってきたとき「リューン・ダイを殺さずに済みました」と言ったフローには、心のどこかでダイのことを殺さずに救いたいという気持ちがあったのかもしれません。そう考えると、ダイス先生の登場によって救われた結末になった言えます。

何より、あのときダイス先生が間に入ってこなかったとして、フローがあのままダイのことを受け止められていたとして、果たしてダイを救うことができたのか、と聞かれるとなんとも言えません。ああやって剣を置いて、自分はダイのことを受け入れるよ、受け止めるよという姿勢を見せたこと、ダイを抱きしめてあげようとしたこと、そうした「愛」の力でフローはダイを救おうとしたのかなと私は思っているのですが、本当にそれでダイを救うことができたのか、それはわかりません。そしてダイを救えたとしても救えなかったとしても、フローは死んでしまっていたような気がします。
「身を挺したのにダイを救えなかった」という最悪の結末よりは、「身は挺していないけど、自分の力ではないけれど、結果としてダイは救われた」という結末のほうが幸せな気はしますが、どうなんでしょうね。


とにもかくにも、そういった意味でフローくんは「滅びの剣をめぐる旅の結末に納得したのだろうか」と私は疑問に思っています。だけどもしも、フローがあれでよかったと思っているのなら、リューンはハッピーエンドだったと言えるのかなとも思います。


以前のブログを読み返したら、

信じることで魔法の力はきっと存在するし、そうやって魔法を生むこと自体が、2人にとっての「僕たちの魔法」だったんじゃないかな。
という明るく救いのある方向で終わりたい。終わってほしい。そうであれば幸せだなあと思いました。
2人にはこれから幸せな人生を歩んでほしい。

と書いていました。私が。結局はそういうところに尽きるのかなと思います。いろんな疑問を勝手に私は抱いていますが、どうか、フローやダイにとって「リューン」は幸せな物語であってほしいなと思います。





ん~~、でも実際はどうなんでしょうね。
ここから先はリューンがハッピーエンドだったかどうかとはだいぶ話が逸れるので適当に読み飛ばしてもらっていいんですけど、仮にあの物語がハッピーエンドとして幕を閉じたとして、その先の2人には、また苦しい日々が待っているんじゃないかと思うんですよね。手放しにハッピーエンド!これからは幸せな暮らしが待っている!なんて言えないんじゃないかなと思うのです。


ダイは、あれだけ晴れ晴れとした表情をして弔いの旅をしていると話していたけれど、自分が過ちを犯してしまった土地を1人で巡るなんて、実際はすごくすごく苦しい旅だと思いませんか?きっと、行く先々で黒い獣との日々を思い出す。たくさんの人を殺してしまった事実を目の当たりにする。もしかしたら、10年前の自分やフローと同じような、仲間をみんな殺されて1人生き残ってしまった子どもに出会うかもしれない。10年前に両親を、兄を、里のみんなを殺されて、ずっとずっと憎んできたダナトリアと同じことを自分がしてしまった軌跡をたどるなんて、地獄のような旅だと思います。その苦しみを受けることが、ダイにとっての罰になるのだと思いますが、ダイはそこまで分かって旅に出ていたのでしょうか。だとしたらすごい。

ダイス先生、もといガンドラ王は多くの人を殺してしまった罰として永遠の命を授けられ、ずっと苦しみながら生きてきました。そのダイス先生と同じことを、まだ15歳のダイはしようとしている。

とはいえ、ダイにはフローたちがいます。たった1人になってしまったダイス先生とは少し違うのかもしれません。「離れていても俺たちは兄弟で、調和を愛するルトフの民だと思っている」。そうやってルトフの人たちのことを、自分を受け入れてくれる存在として信じていたから、ダイは強くいられたのでしょうか。


でも、そういう存在だからこそ、ダイがルトフに戻ってきたら、ダイもフローもまた辛くなるのかもしれないとも思っていて。
ダイはルトフの里の現状を見ることがきっと1番つらい。なんのために剣術を習って力を付けてきたのかと言えば、今度こそ大切な人たちを守りたかったからで、だけどその大切だった里の人たちを自分は殺してしまった。こんなに悲しくて苦しいことないと思います。里の人たちはきっと優しくダイのことを迎え入れてくれるんだろうけど、そうやって優しくされるからこそ辛くなってしまう気がします。


そして最近考えるようになったのは、フローは帰ってきたダイのことを受け入れられるのかどうか。ゆるしを与えられるのかどうか。自分の大切な人を奪ったダイと、前と同じように一緒に笑えるのかどうか。ということです。

結果だけを見れば、ダイがやったことは10年前にダナトリアがやったことと同じです。たくさんの大切な仲間を殺していきました。そんなダイがルトフの里に戻ってきたとき、フローは受け入れられるのでしょうか。ダイの起こした悲劇を思い出す瞬間がきっとあって、それでもダイの隣で笑えるのでしょうか。

10年前の戦争も、もちろん2人にとっては大きな悲劇でありトラウマでしたが、今回の滅びの剣をめぐる物語もまた同じように、いや、もしかしたらそれ以上に、向き合うのが苦しいことなんだろうな、と思ったりしました。



「リューン」が「成長」の物語だったとすれば、その2部はきっとダイがルトフの里に戻ってきた場面から始まって、フローにとっては「ゆるし」がテーマの物語になるのかなあと思いました。

「リューン」において、フローとダイは同じ立場でした。歌い踊るフローと剣を磨くダイ、魔法を信じるフローと信じないダイ、というように確かに対になる部分は多かったけど、「家族や仲間を殺されて、自分たちだけ生き残ってしまったという壮絶な過去を持つ」という大きなところでは同志でした。ルトフの里で兄弟のように育ってきた仲でした。「リューン」は、そんな2人が滅びの剣を通じてその過去を乗り越え成長していく物語だったと思っているのですが、その物語を経て2人の立場は変わってしまいました。フローは変わらず奪われた側だけど、ダイは奪った側になった。フローは許す側で、ダイは許される側になってしまう。そんな2人がどう関係性を作り直していくのか、それが「リューン」の続きになるのかなあ、なんて。




いやもう後半は頂いた質問と何も関係なくなってしまったけど、久しぶりに考えたリューンの話でした。
リューンは再演もしてほしいし、続編も作ってほしいなと思っています。