春が空から降ってきた

ミルクティーみたいな君へ

ABC座2016  ―無能なワンゼロのお話

レポと解釈、という名の妄想です。





・We are DIGITAL BOYS
ONEZERO、那由多、京、千、一、点、厘、そしてmillion。We are digital boys。
ミリオンとセンターでシンメ。無能と天才、リーダーと新入りが並んでデジボの真ん中に立って踊るのぐっときた。多分深い意味はないと思うんだけど。
最後下手に集合するとき、ワンゼロ以外は後ろ向いてポーズ決めるのに、ワンゼロだけは前を向いてる。1人だけ違う。そしてそのままデジコ―でのシーンに入る。


・イシケンの去ったデジタルコープス
専務と秘書の言い合いを聞きながら、「専務さん、秘書さん、イシケンくんは?」「結局デジコ―やめたの?」って聞くワンゼロ。最初だけはイシケン「くん」って呼ぶ。好きとか尊敬とかの意ではなくて、嫌味を込めてるみたいだった。新しい会社「応援屋」を立ち上げたみたいって聞いて、ワンゼロ以外は「株式会社おーえんや?」って復唱する。でもワンゼロだけは言わずに「だっせー名前」とだけ馬鹿にする。専務たちに質問したけど、ワンゼロはイシケンが応援屋を設立したことを知ってたんじゃないかな。初めて聞いたんだったら、もう少し表情変えると思う。だから最初だけイシケン「くん」って呼び方も変えてたのかなって。

愛とか友情に目覚めちゃうなんてつまんない、こういう(悪い)生き方を教えてくれたのはイシケンくんなのに、情はビジネスに必要ないって言ってたのに、って他の人の会話を無の表情で聞くワンゼロ。京の「その会社ぶっ潰したいですね」に「I think so too」って返して社員証ピッてするワンゼロ。
「デジタルコープスは現代版の殺し屋稼業ですよね、たーだーさん」の「たーだーさん」の言い方ほんっとにゾクゾクした。冷たいというよりも温度がない声。

でもイシケンのいない会社なんてなー、もっといろいろやりたかったのに、やめちゃおっかなーって話す那由多や一。それを聞いてデジボのみんなはヘラヘラ笑うけど、全然笑わないワンゼロ。それどころか、「おいおいドロンジョ様、ほんとにやめるぜ、ふざけた態度取ってんなら」ってキレる。ドロンジョ様の件でまたみんな笑うけど、やっぱり笑わない。そういうのじゃねーんだよ、みたいな、ほんとどうでもいいんだよ、みたいな。イライラしてた。

そしてイシケンがデジコー作って悪さをしてきた理由の話。みんなが思い出し笑いでクスクスしてる中、すっと手を挙げて笑いを制して「暇だから」って答えるワンゼロ。この時の目がすごいの。カッと白目を光らせて凄む。あいつはそういうやつだった、なのになんだよ応援屋って、みたいな話し方。ここが1番、ワンゼロにリーダーみを感じた。


・「イシケン潰すか」
「面白い面白くないに金は関係ないんだよ」な那由多と、「欲しいものがなかったら金なんてあっても意味ない」な千の台詞を受けて、「よし、イシケン潰すか」って思い付くワンゼロ。それまではずっと低くて負の方向に振れてた、というよりも無に近かったワンゼロの表情が、ここで初めて明るくなる。いいこと思い付いた!みたいな、楽しそうなワクワクした表情になる。

他のみんなもいいねえって賛成して、専務たちもそうしろって言うけど、「あんたらに命令されてやるんじゃないぞ」ってくぎを刺すワンゼロ。それはほかのデジボも同じで、あくまで自分たちの「暇つぶし」でやるだけだからって強調する。誰かに命令されたからでも、お金のためでもなくて、イシケンと同じように「暇つぶし」なだけ。


・感情の動かないワンゼロ
とにかくこのシーンでワンゼロは一貫して笑わない。「イシケン潰すか」の時以外、ずっと無の表情を浮かべるか、イライラしているかのどっちか。周りがイシケンとか専務のこと馬鹿にして笑ってるときも、その笑い声を聞きながらイライラしてた。そういうおふざけはいらないんだよ、みたいな。イシケンに関することしか考えてなさそうだった。それ以外は全部無駄とすら思ってそうだった。

全部教えてくれた、すべてだったイシケンに捨てられた。「どうして教えてもらった通りにしていたのに、捨てたの?裏切ったの?」って絶望の中で、どうしたらいいのか分からなくて戸惑ってるワンゼロ。怒っているようで、憤りのような強い感情で肩をいからせているようで、実は不安で仕方ないだけなのかもしれない。周りが笑ってるのに1人笑わないのは、イシケンがいなくなったのにへらへら平然と呑気な周りにいらいらしてたからかも。そいういう意味では、那由多たちはイシケンにあんまり興味なかったのかもしれない。ワンゼロ以外は、イシケンの言う通り本当にただ「暇つぶし」をしていただけ。
そのあと、自分で冗談振ったくせにドロンジョ様の件でも1人笑わないし、「まあでも暇だし、俺たちもその会社潰しますよ」の言い方も、死ぬほど興味なさそうだった。


・興味があるのはイシケンだけ
だけど、「イシケン潰す」って思い付いた時だけは本当に表情が動いた。「応援屋を潰す」の言い方と「イシケン潰す」の言い方が全然違った。那由多と千のセリフを受けて「そうだ!いいこと思いついた!」みたいな子供のような表情するから、イシケン潰すのを面白そうって思ったのかなー。そこのモチベーションだけちょっと分からなかった。
でも本当に、ワンゼロの感情が動くのはイシケンに関することだけなんだなって思った。し、そうありたいとワンゼロ自身もどこかで思ってそう。だから、多田と高井に言われてイシケンを潰すんじゃなくて、「暇つぶしだ」って強調する。那由多や京がそう言うのは2人に命令されるのが癪だからだと思うけど、ワンゼロにとってはそれだけじゃなかったのかも。

ワンゼロってデジボの中で上手にやれてたのかなー。曲がりなりにもリーダーだったけど、ほかの人たちと方向性が違いすぎただろう…踊り終わりに1人だけ前を向いてたり、みんなが笑う中ずっと無表情でイライラしてたり、全員で繰り返すセリフを1人だけ言わなかったり。ミリオンのことを見れてないから、「1人だけ」かどうかは分からないけど、少なくともその他のデジボのメンバーと違うことが多かった。


・ワンゼロと京
あと、京との関係も気になるところだった。あんなに心のこもってない笑顔でワンゼロの肩を揉む京とは。イシケンとワンゼロみたいな関係なのかな。あまりに自然に肩揉むし、ワンゼロも何も気にしてなかったからいつものことなんだろうなー。「I think so too.」で社員証ピっと合わせるシーンは、ただの小ネタだってわかっていても和む瞬間だった。
ワンゼロがまともに話したのも京とだけだったし、そのあとのシーンで部屋から出ていくときも、京(と点)には声掛けるし、ワンゼロ側も満更ではないのかな。なかなか興味深い2人だった。


・人の不幸をクリック、クリック
社員証タッチして順番に事務所に入ってくるデジボ。那由多とかは楽しそうに踊るんだけど、ワンゼロは無の表情で踊ってた。ワンゼロとして踊ってるんだなって。ただ、CATANAが近くに来た時に少しだけ柔らかい表情になってて、あ、一瞬だけみゅうとくんに戻ってる、ってなった。CATANAのことぽんってしたのは優しい美勇人くんだった。
床に倒れて電源切れたみたいにフリーズする振りがあるんだけど、そのときワンゼロ、目を瞑るの。その顔がすごく綺麗だなって思った。「人の不幸をクリック」の歌詞にも特に心が動いてないワンゼロは、不幸がどうとか興味ないんだろうな。

そして曲が終わった途端、すごくイライラした表情になるワンゼロ。肩を揉みに来た京のことも追い払う。「最初は大目に見てやってたけど、あいつだけは許せねえ」って京と厘を連れて出ていく。
ワンゼロがあんなにイライラしてたのは、イシケンがワンゼロたちのことを無能と言ったから。天才なのはミリオンだけで、そのほかは大したことない集合体。その中でもワンゼロは底辺だって言われたから。そう言った那由多とか一はそれでも楽しそうで、この人たちはやっぱりイシケンにそんなに興味ないんだろうなって思った。特にイライラしてる素振りもなかったし。


・イライラしてるのは、無能呼ばわりされたからじゃない
と思う。イシケンにスカウトされて、リーダーにもなってイシケンと働いてきて、イシケンに教えてもらったように生きてきたのに、なんで急に馬鹿にされないといけないの?って「分からない」からじゃないかな。急に自分たち捨てられて、挙句の果てには無能呼ばわりされて、全然意味わかんないって。そうやってついていけなくなった自分に対してもイライラしてそうだった。

那由多たちがワンゼロのことを小馬鹿にしたように笑ってたのも、プログラマーとして無能だったからではなくて、イシケンから無能って言われて感情乱されてたからだと思った。ちょっとイシケンに言われたくらいであんなにイライラして。餓鬼みたいだなアイツ、みたいな。

もしかしたらそれまでも、イシケンだけに感情を左右されるワンゼロのことを那由多たちは見てきたのかもしれない。そしてそんなワンゼロのことを馬鹿だと思ってきた、のかもしれない。
「イシケンにリベンジ、絶対するなー。イシケンの大事にしてるもの壊しちゃうんだろうなー」って楽しそうに馬鹿にしたように言った那由多。那由多自身は、なんか面白そう、イシケンに復讐でもしてやるか☆くらいの、それこそ良い暇つぶしだと思ってるんだろうけど、ワンゼロはきっと桂馬さんとの戦いに本気を出す。だってイシケンに関係してるものだから。

それが正しいのか、勝てたらどうなるのか、どうしたいのか、きっと何も考えてない。ただ、イシケンの関わっている桂馬さんとの戦いが目の前にあるからやるだけ。


・「無能」の意味
イシケンの言う「無能」は人間味がないという意味だったんだと思う。
イシケンは「桂馬さんの将棋には夢がある」「本当の頭の良さは、自分の選んだ道を自分の力で歩けること」って言うし、那由多は「桂馬には感性がある」って言う。それらがきっとワンゼロにはないと思ってる。だから「無能」。

多分、プログラミング能力に関しては有能だったんだと思う。イシケンがスカウトして、デジボのリーダーやってたくらいだし。名前の通り、1と0で動くコンピューターとしては有能だった。し、それで良いって教えてくれたのはイシケン。ワンゼロを無能にしたのはきっとイシケンなんだよなあ。だってイシケンもかつては無能だったから。
自分で選択すること、人のことを思いやること、人と人との繋がり。そうした人間としての生き方をイシケンは知らなかったし、だからワンゼロにも教えられなかった。

だけどイシケンは社長と出会って、それを知った。夢とか、愛とか、友情とか。機械の世界にはないものを知って、それをワンゼロに教えることなくデジコーを去った。


「応援屋を作って、初めて仲間ができた」
の言葉が私はとても悲しかった。イシケンにとってワンゼロたちは仲間じゃなかった。暇つぶしで作った会社で、暇つぶしを一緒にしていただけの人たち。そこへの帰属意識も、愛着もなくて、イシケンは内側にいなかった。
だから自分が社長と出会って知ったものを、ワンゼロたちに伝えることなく簡単に捨てていったのかな。大きく自分を変えた素晴らしいものを教えてあげたい、と思う対象じゃなかったんだな、ワンゼロたちは。そしてワンゼロはもっと歪んでいってしまった。

こんなに悲しいことはないって、思った。


・Delicious/桂馬vsCATANA
桂馬とCATANAとの対局。イシケンたち応援屋とdigital boysの戦い。
それぞれが将棋の駒になって、相手を取ったり取られたり。殺陣と踊りで試合が進んでいく。最初は冷静に、無表情に試合を進めるワンゼロ。取られた那由多のことも、無表情に斬って取り返す。那由多を取り返したのも、仲間だから、ではなくて、きっと試合に勝つため。ただそれだけ。デジボのことを仲間だと思ってない、という点ではイシケンと一緒なのかも。

きっと最初から、ワンゼロは桂馬さんのことを見てない。桂馬と戦うのは、その先にイシケンがいるから。だから「恨むならイシケンを恨めや」って言う。それはこの戦いの始まりが、イシケンの作ったCATANAにあるからってだけじゃない。こんな生き方を教えたのはイシケンなんだぞって意味もあったと思う。あとは、桂馬さんがイシケンの仲間だからって意味も。ワンゼロに桂馬さんへの感情って本当に少しもなかったんだろうなあ。すべての始まりはイシケン。だからイシケンを恨めよって。


・応援屋とかいうお仲間
桂馬が王手を掛けられた時に駆け付けたイシケンたち4人。それはイシケンたち応援屋の桂馬への気持ち。バーでイシケンが「もし試合中に僕たちが見えたら、それは気持ちです」と言った、気持ちの4人。
そしてそれがワンゼロには見えない。だから「誰としゃべってんだよ?」って言う。切ない。

それでも途中で、桂馬さんが話している相手はイシケンたちだと気付くワンゼロ。「ああ、応援屋とかいうお仲間か」って仲間に対して嫌味を込めた言葉を吐く。きっと誰よりもイシケンの仲間になりたかったのは、ワンゼロなのにね。この時点で、ワンゼロにもイシケンたちが見えてたのかなー。最初は見えてないんだと思った。だからこそ余計に悔しくて、皮肉を込めた話し方をしているのかなって。でも、殺陣の後半でイシケンが斬られたときに明らかに表情が変わったから、きっと見えてる。何がきっかけで見えるようになったのか、とても気になるところだった。

今は桂馬さんの仲間で、助けに来てくれたかもしれないけど、「俺たちはイシケンに教わったんだよ、こういう生き方を」なんだよね。そっち側にいて、お前の仲間をやってるイシケンが、俺たちをこういうふうにしたんだぞって、ワンゼロは言う。

このあたりからワンゼロの踊り方が変わる。前半と後半では感情の強さが全然違う。自分たちのことは仲間だと思ってくれなくて平気で捨てていったイシケンが、桂馬とは仲間になったのを見て、リミッターが1つ外れてしまったような踊り。ほんっとに美勇人くんはワンゼロとして生きて、ワンゼロとして踊ってた。


・爆発する感情
4人が応援に駆け付けたけど、桂馬側は劣勢のまま。1人ずつ取られていく。そのとき、栗田は「桂馬さんを信じて生きてきてよかった」と言う。イシケンは「早く気付いてくれ」と言う。イシケンが斬られたとき、ワンゼロは表情を変える。ああって絶望したような、びっくりしたような顔をした。そして、天を仰いで叫んだ。

「信じて生きてきてよかった」と思えるほどの人と出会って、仲間になれた栗田への羨望や嫉妬なのか、「気付いてくれ」と自分たちを非難してきたイシケンへ絶望なのか、今まで唯一自分の軸としてきたイシケンが斬られてしまったことへの衝撃なのか。
どれが引き金になったのかは分からないけど、それを受けてワンゼロは感情を抑えきれなくなる。叫んで、泣きそうな顔をする。


・「分からない」に溺れる
最初からずっと、きっとイシケンがデジコーを出て行った時からずっと、ワンゼロは「分からない」に苦しんでたんだと思った。きっとその一言に尽きる。だから、イライラもした。無表情にもなった。そういうところが、「無能」だった。
なんで、どうして、どうしたら、の答えをイシケンから欲しくて、不安でたまらなかった。


イシケンの言ったとおりに生きてきたのに、なんで自分たちは捨てたの?
桂馬たちとはなんで仲間になったの?何が違ったの?
どうしてこうなってしまったんだろう?
これから自分はどうしたらいい?どうすればよかった?って。


真っ暗な中1人おいて行かれた子供みたいに、不安で怖くて、どうしたらいいのか分からない。助けてほしい。そんな心の叫びが、あの最後の叫びと、切なくて泣きそうな表情に繋がったんだと思った。もうワンゼロには、1人でその感情や迷いを抱えきれなくなったように見えた。

だから叫んで、泣きそうになりながら、ただ茫然と対局を見ているしかなかった。
悲しいとか、寂しいとか、不安とか、全部を一緒くたにしたような叫び。それを全部吐き出して、空っぽになってしまったような表情。
そして、斬られたワンゼロ。




ONEZERO。1と0。二進数。コンピューターを動かす数字。
人の温かみを知らない、イシケンしか知らない、人間としてはどこまでも無能なワンゼロ。
ただただ、救われてほしいと思った。

人の幸せをクリック、できるようになってたらいいなあ。





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ワンゼロのことしか見ていないので、ミリオンとか、イシケンとか、もっといろんな人のことを見ていたらまた違った解釈ができたんだろうなーと思う。深く考える暇もなく、ワンゼロの表情とか踊りに圧倒されてしまった瞬間もたくさんあって、まだまだ自分でも分からないことがたくさんある。

数回しか見ていないけど、これだけのことを考えたくなるくらい、美勇人くんの演技はすごかった。特に最後の叫び。
美勇人くんが、どんな解釈をして、何を想って、あのワンゼロを生きたのか、いつかどこかで知れたらいいな、なんて思っている。以上、私の中のワンゼロのお話でした。